コケる瞬間。殴られる瞬間。携帯トイレ水没の瞬間に、駆け込み乗車失敗イコール遅刻決定の瞬間..。蜘蛛の巣状に危機的状況の張り巡らされたこの世界。そんな状況に陥ったとき、世界がスローモーションに見えることを『タキサイキア現象』と呼ぶ。きっと読者の中にも経験者がいるだろう。

もちろん実際に時間が遅くなったり静止しているわけではない。これは我々人間が生まれ持った自己防衛手段の一種で、人は危機に直面すると出血をできるだけ回避しようとする。そのため血管を瞬間的に収縮させ、それと同時にその他の身体機能を低下、その結果本来眼から脳へ伝わるはずの信号も鈍足化され、世界がスローモーションに見えるという。つまり脳の錯覚である。

慌ただしい現代社会。人々は競うように歩を進め、黄色で止まれば後ろからはクラクションに60秒で出てくるハンバーガー。しかし急げば急ぐほど簡単な作業でも精度や注意力は落ち、「待ってました」とばかりにやってくるタキサイキア現象。今日だけでもいい、たまにはゆっくり歩いてみてはどうだろう。